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製造業の値上について考える

原材料費の高騰がえげつないですね。特にこの一年。

最近、徐々に価格転嫁ムードが出てきて、値上げに踏み切る企業も増えていますが、それでも本音はもっと上げたい。まだまだ上げ足りないけど顧客離れが不安。という会社も多いのではないかと。

 

DAZN価格戦略

昨日DAZNの値上が発表されましたが、なかなか日本には馴染みのない、強気な価格改定でしたね。しかも予告期間ほぼなし。

www.itmedia.co.jp

 

この値上で顧客が減ったとしても、それをカバーできるだけの売上・利益が値上で確保できると見ているのでしょう。

企業にとってあまりメリットのないカジュアルユーザー(ライトユーザー)を切り捨てて、実のある意見を出してくれて企業の成長を応援してくれるヘビーユーザーを残し、増やしていく。

DAZNの値上げは見た目のインパクトこそ大きいですが、典型的な手法です。

 

うまい棒価格戦略

一方で、やおきんのうまい棒。こちらも値上げを発表しました。

www.iza.ne.jp

 

うまい棒並みのブランド力があれば、15円くらいにしても売れ行きは大して変わらない気がします。

それなのに、小幅な2円の値上にとどめたというのは、もしかしたら第二弾、第三弾の値上げに備えているかもしれないですね。

キャッシュレス決済が普及したとか、子どもが100円握りしめて通うような駄菓子屋がなくなった、という外部環境も、ようやく10円から1円単位で値上ができた理由だと思います。

いずれにしても、今まで値上げせずにやってきた企業努力は本当にすごいと思います。どう対応してきたのかを知りたいところです。

 

普通の会社の価格戦略

とまぁ、DAZNとかやおきんは、すごいブランド力を持つ会社ですから、機動的な価格戦略を取ることができますが、一般的な会社は、戦略的に、一方的に値上げを宣言するのではなく、ライバルの動向や大口顧客の感触を探りつつ、「今回はこんなもんかな」という無難な落としどころを見つけて値上げに踏み切ることが多いですよね。

顧客が他社に流れてしまったり、買い控えが起こるようなことがないよう、絶妙なラインに調整するわけですね。

 

ところで、営業部門が値上を嫌がる理由がわからない。

私が過去に在籍した会社、全てに当てはまるのですが、営業部門は値上に反対しがちです。

「安い方が売れて儲かる」という営業の意見はもっともらしく聞こえるんですが、これ、私にはまったく理解できません。

 

簡単な算数の問題です。

原価70円で作れていたものが、原材料コスト増によって、80円に上がってしまっている。そのため売価を100円から110円に改定する。

…という話が出ていたとします。

原材料費アップは、自社努力ではどうにもなりませんから、当然、110円に上げたいところです。

でも、多くの営業担当者はこれを嫌がるんです。10%も上げたら絶対お客さんが離れる!と、大騒ぎします。

 

利益をベースに考える。これは経営の基本。

営業は安ければ安いほど売りやすい。これは間違いありません。が、一方で、必要とされている利益を確保するのには、たいへん苦労することになります。

上の例で行くと、今まで利益が30円出ていたものが、同じ販売価格では20円しか出なくなっているわけです。

会社として3,000円の利益を稼がないといけないとすると、今まで100個売ればよかったのが、150個売らないと目標達成できなくなるわけです。1.5倍ですよ?営業担当者全員が、今の1.5倍の新規顧客を捕まえられますか?恐らく無理でしょう。

経営は売上高ではなく、利益で考えなければなりませんよ、という話です。

 

プライスリーダーの話。

もしこの会社がプライスリーダーなのであれば、「値上げしない」という選択も経営判断の一つです。

 

mba.globis.ac.jp

 

なぜなら、自社が厳しいなら、二番手以下の会社はもっと厳しいから。利益が減ったとしても堪えて、それで競合の体力を削ぐことができ、結果的に競合を潰すことができれば、値上げせずともシェアは増やせますからね。

 

あるいは、この会社が二番手以下で、プライスリーダーが値上げをした場合の対抗策としても、「値上げしない」のは戦略となり得ます。

プライスリーダーが値上げすると、その価格が本来適正であろうとなかろうと反射的に、一定数の顧客はより安いところに流れます。吉野家が値上すると、一時的にお客さんが他社に流れるアレです。

一番手だけが値上すると、二番手・三番手の企業(松屋すき家)は、値上をしないことで確実にシェアを上げることができます。

 

ただ、この手法を取るには、値上げせずとも企業存続に必要な利益を確保できることが前提です。利益を削ってシェアを増やしても、自分とこが赤字になってしまっては元も子もないですからね。

 

本題。製造業の場合はどうか。

一方、製造業の場合は、物を仕入れて売る商社や小売と違い、他社と全く同じ物を売ることはありません。

何らかの差別化ができているからこそ、自社の商品が作れて、売れています。

たとえば、あるサイズのネジを作るにしても、市場内には明確なプライスリーダーがいるように見えるんですが、それは単にその企業が売上シェアNo.1であるだけ。実は価格決定権はなく、真のプライスリーダーはいないことが多い、というのが現実だと思います。

 

そうは言っても、他社より1円でも安い方がいいのでは?

全く同じ物が買えるのであれば、1円でも安いものを買います。しかもそれが、単純な構造のものであればあるほど安いものが求められます。

しかし例えば、液体を流す鋼管とか、24時間稼働する機械のネジといった、特に耐久性の必要な物は、価格よりも品質の方を重視する顧客が多いです。

つまり、その会社だけが値上げした、あるいはしなかったからといってシェアが大きく変わることはない、と言えると思います。

 

ですから、製造業の多くでは「足並み揃えて値上げ」ということになるんですね。本音はみんな上げたいんですから、市場全体の値上げ基調には乗っていくのが得策だということです。

これは逆を返せば、同業他社と、とんでもない価格差がつかない限り、製造業の値上げは、その後の売れ行きにはあまり関係ない、ということになります。

買い手からすると、1個100円だろうが110円だろうが、必要であることに変わりはない、ということです。たとえ価格が据え置かれていたとしても、こっそりスペックを下げられるのが、一番困るわけです。

 

ということで、何が言いたいかと言うと。

大して考えもせずに、値上げに反対したり、簡単に値引してしまう営業担当にはもう少し勉強して欲しいなと。それが言いたかったんです。値上げして売れなくなるのは、決して価格のせいではなくて、その物が持つ特徴、魅力を営業が伝えきれていないからです。

理論ばっか言ってんじゃねえよ!値上げすると売れないんだよ!じゃ代わりにお前が売ってみろ!

と、怒られるかもしれませんが、その時は

私が売ってしまったら、あなた方の居場所はなくなるけどそれでいいんですね?

とケンカを売るつもりです。こちらも経営企画のプロですからね。ただ、幸いなことに、まだその状況に陥ったことはありません。笑

 

まぁせめて上に書いたように、利益を考え方の基本として、商品を1つ売ると、いくら儲かるかを頭に置いておくことが、営業を担当する人には重要なんじゃないかなと。採算度外視の安い価格設定なら、誰にでも売れますからね。

 

利益をちゃんと考えた上で物を売りましょう、というお話でした。