Aporia

ブログ移転しました。

規程を見直す時の8つのポイント

「社内規程の改訂(改定)」というのは

経営管理を行う上で、重要な業務の一つです。

でも、滅多に改訂されないものです。

(面倒くさいしね)

 

いざ上場準備で

証券会社にチェックを受ける直前に

「えっ、規程どうなってたっけ?」と

見直すことが多いものです。

 

でも、そのタイミングではもう

手遅れであることが多いのも事実。

 

「うちの規程は社会保険労務士

 チェックをちゃんと受けてるから大丈夫」

「つい何年か前に整備したばかりだから

 法律にはきちんと沿っていると思いますよ」

 

こう思っている方もいるかもしれませんが

私の過去の経験上、コンプライアンス的、

ガバナンス的に、修正すべき条文が

全く見つからなかった会社はありません。

それは、上場企業でも然り。

 

EY新日本監査法人のWEBサイトに

「規程整備のチェックポイント」が載っているので

こちらを引用させていただきます。

 

www.eyjapan.jp

 

1. 規程は会社の実態に適合しているか。

2. 規程間の整合性はとれているか。

3. 規程は各種法令等に違反していないか。

4. 運用実績は帳票、証憑等によって確認できるか。

5. 各規程の管理担当部門は明確になっているか。

6. 規程の改廃の時期は明確になっているか。

7. 規程の改廃の手続きは機関決定されているか。

8. 社員には周知徹底され、必要な規程は

   いつでも閲覧できるようになっているか。


これに沿って、実務上注意したいポイントを

挙げていきます。

 

1. 規程は会社の実態に適合しているか。

これ、上場準備中の企業は要注意ですね。

証券会社から「必要規程一覧」みたいな

リストをもらって整備を進めると思います。

 

でも、各種必要な規程は

全く何もないところからはなかなか作れないので

インターネットで検索したり

証券会社からひな型をもらったりして

規程を作ることが多いと思います。

 

すると、会社の実態と合わない内容、

特に「規程には書いてあるけど、実際はやってない」

という内容が出てくる可能性が高いです。

 

上場審査上は

「規程にあるけどやってない」のは絶対NGです。

そういう条文がぽろぽろ出てくると

実際にやっていることまで

本当にやっているのか?と疑われ、

じゃ、証憑出してください、という話になって

重箱の隅をつつくようなチェックの範囲が

広がってしまいかねません。

 

規程全体の信憑性を損なわないためにも

本当はやってない内容があったら

実態に即した条文に変える」ことを

まずは検討しましょう。

 

それが無理そうなら

条文ごと削除する」べきだと思います。

間違っても

「運用を規程に合わせる」ことはしません。

 

ただでさえ規則やルールは守られないものです。

いま、実運用ができておらず

そもそも誰が作ったか分からないルールに

運用を合わせていくのはナンセンスです。

 

2. 規程間の整合性はとれているか。

整合性が取れていないのは

当たり前と言えば当たり前です。

専門家に作ってもらったり

証券会社からサンプルをもらったり

インターネットに落ちているものを流用したりして

バラバラに増やしているわけですからね。

 

整合性を取るためには、少々面倒ですが

全ての規程を一気に、

通してチェックするのが良いと思います。

 

注意したほうがいいと思うのは

就業規則とその他の規程の整合です。

 

就業規則は、懇意にしている社会保険労務士

相談しながら作ったケースが大半。

なので、就業規則は会社の実態に

沿った内容になっている可能性が高いです。

 

一方、その他の規程。

会社の規模・業務範囲が大きくなるに従って

増やしていくことが多いので

どうしても、その時代やその時の実態に

合わせた内容になります。

すると、就業規則とのズレが生じやすいんです。

 

特に注意したいのは

手当や労働時間に関する規程のズレです。

 

給与規程や報奨金規程、

単身赴任、出張、旅費交通費等の規程を作ると

就業規則との整合性がとれていない条文が

混ざる可能性が高いです。

 

上場準備会社の場合は…

 

・規程にない手当を支払っていないか。

 

・規程に書かれている金額と

 異なる金額を手当として支払っていないか。

 

・支給対象となる人全員に支払われているか。

 

・割増賃金の算定基礎に入れる手当と

 そうでない手当の分類は適正か。

 

これらが審査の対象になりますので

同時にチェックしておく必要があります。


ちなみに手当関連は、上場審査だけでなく

税務調査(手当の課税/非課税)にも関わるので

非上場の会社でも注意しておきたいところです。

 

対策としては、すべての給与項目

(基本給、手当、奨励金、補助金等)に対して

以下のようなリストを作ってチェックすると

いいと思います。

 

○どういう性質の給与/手当かの説明

○支給対象となる条件

○支給根拠となっている規程の名称

○割増賃金の算定基礎に入れるか否か

 

余談ですが

手当の名称はその性質を正確に表現すべき

「技術手当」とか「教育手当」のような

抽象的な名称は避けた方がいいです。

 

「技術手当」と言われても

資格に対する手当なのか、それとも

役職手当に相当するものなのかわかりません。

「教育手当」という言葉だけ見ても

本人の教育にかかる手当なのか

それとも家族の教育費を補填する手当なのか、

見ただけでは分からないですからね。

 

手当の話ばかりになってしまいましたが、

労働時間や休日に関する

各規程の整合性も要注意ですよ。

 

3. 規程は各種法令等に違反していないか

8つのチェックポイントの中で、

対応が一番難しいものだと思います。

常に最新の法改正をチェックしている

法務部のような組織のある大企業はいいですが

なかなか一般の中小企業にはありません。。

 

しかしながら、従業員やその他関係者から

訴訟を起こされたり、労働基準監督署や税務署から

指導や指摘を受けてからでは遅いです。

 

私が思うに、これは

お金や時間をかけてチェックするしか

対応方法はない、と思います。

 

特に、

過去に作った規程が、

今の法規制に則しているかどうかのチェックは

社労士やIPOコンサル等の専門家に任せるべき

だと思います。

 

一度、時代に合った規程に直した後は

自分たちが勉強すればなんとかなります。

 

勉強には、やはり専門誌を読むのが一番です。

経理・総務・人事と、広い範囲をカバーする

専門誌として「企業実務」を講読している

会社も多いと思いますが

上場を目指すような企業が講読する専門誌としては

若干物足りなさを感じます。

(あくまでも個人的な意見ですが)

 

私のお勧めとしては

経理・会計・財務面は「経営財務」

総務人事面は月刊総務を講読していれば

まぁ法改正のポイントには追い付いていけるかと。

記事を読んで、当社に影響あるかも?

というところを

顧問の社労士・税理士に相談すればいいんです。

 

最近では、総務・労務向けのオンラインメディアが

かなり充実していて、本当にありがたいですね。

特に「オフィスのミカタ」が素晴らしいです。

 

officenomikata.jp

 

これが無料とは。助かりますねぇ。

これからの時代のオフィスのあり方を考え、

それを規程やルールに反映していこうという

前向きな取り組みに活用できます。

 

いずれにせよ

「規程は各種法令等に違反していないか」を

チェックするには、専門家の手助けと

社内スタッフのレベルアップが不可欠です。

 

4. 運用実績は帳票、証憑等によって確認できるか。

「管理してます」「運用できてます」と

誰がいくら何と言おうと

証拠がなければ、できていないのと一緒。

 

これは、規程を一度洗い直して

「~の承認を得るものとする」とか

「~を届け出なければならない」とか

「~を提出する」といったような

承認・届出・提出といった手続きが定められているものを

すべてピックアップする必要があると思います。

 

現状、できているもの・できていないもの、

保管しているもの・していないものを分類し

今後の方針を決めなければいけません。

 

というのも、特に重要な書類でないのであれば

提出したり、保管したりする必要はないわけです。

 

規程整備の実務上、気を付けておきたいのは

書類の保管が必要になるような手続きは

むやみに増やさない方がいい、ということです。

 

これは機密情報や個人情報の保持、

書類の保管年数といったルールにも

関わってくるのですが、原則として

「必要なくなったデータは捨てる」のがベスト

 

例えば、社有車運転や車通勤のために

年に一回、運転免許証のコピーを

従業員に提出させる会社もあると思います。

コピーを提出させる目的は

本当に有効な免許証を持っているかの確認です。

 

つまり、確認ができれば

それで目的は達成されるわけです。

ということは、その時点で破棄したとしても

かまわないわけです。

むしろ、免許証のようなガッツリ個人情報を

社内に置いておく方がリスクが大きいですよね。

 

何かと「申請書を書かせる」とか

「コピーを提出させる」といった制度を

作ってしまいがちですが、

本来の目的を考えると

申請があった内容や、事実であることを

確認できればいいわけです。

 

一方で、証憑として

書類の保管が必要になることもあります。

 

例えば、親族や本人の慶弔届。

本当に結婚したか、亡くなったどうかの証明を

会社が取るわけにはいかないので

本人に届出させるのが一般的ですが

これにも個人情報が含まれます。

 

じゃ、持っておくのはリスクがあるから

すぐ捨てていいか?と聞かれると

この届出を元に、慶弔見舞金を支給している会社は

捨てたらダメです。

本来の目的はどうであれ

それが従業員に対する手当支払の

証憑になっているので、捨ててはいけません。

 

書類や届けを出させるときは一つずつ

・利用目的は何なのか

・保管の必要はあるか

・いつ破棄するか

これらを慎重に検討しなければなりません。

 

多くの会社はこの検討を

適当に済ましてしまいますので

無駄な申請書や運用されていない書類、

そして管理されない個人情報が

山のようにできてしまうわけです。

ご用心を。

 

5. 各規程の管理担当部門は明確になっているか。

規程に主管部門が書かれていたとしても

本当にその部門が管理していますか?

 

・担当者が異動した際、仕事ごと別部署に移った

・担当していた課が、組織変更で別部署に移った

 

…というのは、ありがちなケースですよね。

 

あと、注意して欲しいのは

「規程を管理する部門」と

「規程の内容を運用する部門」は違う

ということ。

 

例えば「契約管理は法務」と

決めている会社が多いと思います。

でも、改めて考えてみてください。

 

契約書に押印・署名するのは

印章を管理している総務だと思いますし

契約を実際に結ぶのはそれぞれの部署ですし

契約書の原本はすぐに参照できるよう

各部門や現場で保管している、

という会社も多いと思います。

 

でも、主管部門は法務なんですね。

「契約印」管理は総務。

「契約書」管理は担当部署。

「契約」管理は法務。

 

上場審査では、こういった

業務の区別(職務分掌)が

規程どおりにきちんとできているか

ダブルチェック・トリプルチェックにより

互いに牽制が効いているか

をチェックされます。

 

余談にはなりますが

現実的に、ひとつの部署で完結するような

業務はほとんどありません。

そんな部署をまたいだ業務でも

間違いなく処理され、きちんと管理できるように

するためのルール、それが「規程」です。

 

「規程で決まっているから、そうしないといけない」

のではなく

「漏れなく、間違いなく運用しやすいよう規定する」

という発想を持たないといけません。

そうしないと、なかなか規程というものは

適切に運用されません。

 

規程を作る人はちゃんとそれを意識して

よく考えて作っているはずなんですが

年数を経ると、どうしても形骸化してきますよね。

だからこそ、各規程の管理担当部門を明確にし

定期的に見直しをさせる必要があるわけです。

 

6. 規程の改廃の時期は明確になっているか。

チェックポイント5の

「各規程の管理担当部門は明確になっているか」

と関連していますね。

 

「規程は年数を経るとどうしても形骸化する」

と書きました。

規程を作ってからしばらくの間は、

みんな「規程どおりにしないと!」と

意識して行動するので、規程が有効に働きます。

 

規程が徐々に従業員の間に浸透すると、

現場では、参照されなくなってきます。

 

もっと時間が経つと、規程に準じて作られた、

いわば規程の「子」である

細かいルールや手順が作られます。

そしてさらに時間が経つと、

「孫」となるルールや手順が作られていきます。

 

いつの間にか「規程に合っていない」ルールが

現場では生まれてしまう理由がここにあります。

 

ここまで書くとお分かりだと思うのですが

規程の改廃は、経営企画や管理部門のような部署が

単独でできることではありません。

 

実務を担当している部署、

もっと言うと、実務担当者でないと、

実際の業務と規程が合っているかなんてわかりません。

 

特に、上場準備企業は、業務のやり方や判断基準が

急なタイミングで、大きく変わることがあります。

できれば、半期に一回ぐらいは

自部署が管理担当となっている規程について

実務担当者を交えて、見直しをした方がいいですね。

 

7. 規程の改廃の手続きは機関決定されているか。

機関決定を漏らさないようにするには

すべての規程の改廃は取締役会の承認事項とする

のがお勧めです。

 

また、制度設計をしていると

「ここまでは担当役員承認、これ以下は本部長承認」

などと、細かく分けてしまいがちですが

極力、金額や内容で決裁権限を分けない方が

実際は都合がいいです。つまり

制度上一番楽なのは

全ての決裁が担当取締役に委ねられる状態です。

 

さらにもう一つ、忘れてはならないのは

「規程管理規程」を作ること。

 

規程管理規程の中では

すべての規程に共通することを規定します。

取締役会で審議し承認を受ける旨も

ここで規定しておくといいと思います。

 

なお、実際の規程管理では

すべての規程と担当部署がわかる

一覧表を作っておくべきですが

規定一覧表は

規程管理規程の中には入れない方がいい。

 

規程管理規程の中に入れてしまうと

管理部署や部署名が変わるたびに

規程管理規程も合わせて修正しないといけません。

 

かなり面倒ですし、漏らしてしまいがちです。

規程一覧は、規程の中には入れない。

これはお勧めのテクニックです。

 

8. 社員には周知徹底され、必要な規程はいつでも閲覧できるようになっているか。

今ではほとんどの会社が、社内共有サーバーなり

グループウェアなりを使っていると思いますので

規程はそこにアップロードしておけばOKです。

 

改廃があった時は、どこがどう変わったのか、

どういう人・業務が対象になるのかを

合わせてアナウンスしてあげるとより良いです。

 

なお、労働基準法上、従業員への周知義務があるのは

就業規則だけです。ですが、就業規則

「別途定めることとする」と書いている場合は

その別途定めた規程やルールも

公開する必要が生じます。

 

ちなみに、会社によって判断が異なりますが

私個人としては

規程は全て公開すべきだと考えています。

 

一方、評価基準や、給与賞与の按分など

できれば公開したくないルールは

規程という形ではなく、部署内の運用手順書や

マニュアルレベルにとどめておく。

その方が、無用のトラブルを避けられると思います。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。

 

規程の見直しは、軽い気持ちではできませんね。

規程そのものの分量にもよりますが

複数人で取り掛かっても、数か月かかります。

 

IPOを将来的に目指す会社は、規程を作る当初から

フォーマットや用語集を整えたり

ボリュームを減らす工夫をしたりと

戦略的に規程整備を進めていくことをお勧めします。