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『エシカルワークスタイル 自分にも人にも優しい働き方を考えてみる』(池田晃一著、日経BP)読了

この前『ANTHRO VISION』という、かなり読み応えのある本を読んだので、今回は、そこまで重たくなさそうなトレンドの話題で、さらっと読めそうな本を図書館で借りてみました。

(前回の感想はこちら。全力でお勧めします)

『ANTHRO VISION (アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界』(ジリアン・テット著、土方奈美訳、日本経済新聞出版)読了 - Aporia

 

著者の池田氏は、オフィス家具で有名な「オカムラ」の研究所の研究員さんです。

研究所持ってるんや!すご!と思いましたが、調べてみると、従業員3,800名、売上高2,500億円を超えるグローバル企業でした(2022年3月期)。思ってた以上に大きな企業でした。すみませんでした。

 

やっぱり専門家はすごい。

いやいや、軽い気持ちで手に取ったけど、この本かなり面白いです

「コロナ禍で色々変わったけど、想定内のこともあったし、想定外のこともありました」っていうのがベースなので、たぶんそこまで売れない本だと思うんですが、それが残念に感じるくらい。

というのも、インタビュー(対話、討論?)している大学の先生方の視点が素晴らしいんです。

東京女子大学現代教養学部専任講師の正木郁太郎さん、東北大学大学院工学研究科准教授の本江正茂さん、明治大学総合数理学部准教授の渡邊恵太さん。

失礼ながらお三方とも、本書で初めて知った方なんですが、この方々と池田さんとの対話の章がめちゃめちゃ面白い。さすが専門家。

特に最後の渡邊先生の「情報の可視化がもたらす価値を考える」「デジタルとフィジカルは対立しない」という視点が響きました。

 

ものづくりの情報は、BtoBの領域のサプライチェーンプロトコルとして整理するのが前提です。そのうち消費者が知ってどうなる?という情報には完全に蓋をするような設計があってもおかしくありません。もしも問題がある場合にアラートが出るか、消費者に不利益が生じない、まさに倫理的な設計なっているか。その設計者を信頼できるかという問題にたどり着くと思います。(p.187)

「本物とは何か」を定義するのは非常に難しい。ディスプレイで見ている物や人間がすべて偽物なのか、バーチャルな空間の体験がすべて偽物なのかといったら、そうはいい切れないと大半の人は感じるはずです。世界を認識する際に、本物と偽物、本物とコピーを二分するような価値観が本当に成立するかは考えたほうがいい。(p.188)

 

働き方への意識って、そんなに変わらない

この本を読んで、いろいろ考えましたけど、やっぱり働くことについての個人の意識は大きくは変わらないよね、と思いました。

コロナ禍で「新しい働き方」っていうのがバズワード的に注目されましたけど、テレワークだとか副業だとかは従来からあったわけですし、コロナが落ち着くとテレワークをやめる会社が相当数あることもわかってきました。

また、個人が持つ「働き方への意識」は、本書のP.150にあるような「向上型」「(現状)充足型」「(現状)回避型」「(現状)維持型」に分かれていると私も思うのですが、これって、結婚・育児・教育・介護等々、家庭環境で多少変わることはあっても、実のところは個人の性格に大きく関係するもので、人生の中で大きく変わるものではないのかな、と。

 

大人が変われないのならば、子どもを変えるしかない

そのこと自体は、良いとも悪いとも思いません。どんな考え方を持っていたって、それは個人の自由ですからね。

でも、これから日本は大きく労働人口が減少していきます。今のままでは、増え続ける高齢者を経済的に支えることはまず不可能です。100%無理。だから困る。

解決策と言うか、いい方向にもっていくには、働く前、つまり10代の中学生とか高校生とかの時に、「向上型」や「充足型」となるように洗脳しておくのがいいのかな、と思います。洗脳という言葉はよくないけど、大人は変われないのだから、そうせざるを得ないのかなというのが今の私の考えです。

YouTuberとかスポーツ選手みたいな職業が「将来なりたい職業ランニング」の上位に入らない国を作る。

夢がないとか言われそうですが、そうしないと、日本はもうやっていけない。いやマジで現実問題そうなんですよ。

 

おわりに

この本で一つだけ残念だったのは、アースカンパニーとかいう会社の代表者のインタビューを、まとめの直前に載せてしまっていること。

アカデミックなアプローチがいい本だなと思い読み進めていたのですが、最後に、海外を本拠地にエリートや富裕層向けに商売をしている「毛色の違う」企業の、薄っぺらいインタビューは載せなくても良かったのにな、と強く思いました。

 

 

気軽に手に取った割に、いろんな視点を与えてくれる良い本でした。とはいえ1,980円というのはちょっと高い気がしますので、控えめに星3つ。

今度、渡邊先生の本を読んでみます。