中小企業でよく見るブランディングプロジェクトの失敗例
最近、久々にブランディングの案件に携わっているんですが、広告代理店が売り込んでくる「中小企業のブランディング一式」の中身はこの10年、ほとんど変わっていませんね。
社内でプロジェクトチームを編成する。意見を出し合い、チームビルディング。スローガンやロゴマークを考える。ブランドマニュアルを作る。ブランドブックを作り全従業員に配布。社内外に大々的に発表する会を催す。
プロジェクトの期間は短くて半年、長くて約1年。予算は300万円から1,000万円くらい。
ああ、もう飽きた飽きた。
進化していない、というよりは、パッケージとして成熟しているんでしょうね。どこの会社も同じようなものを持ってきます。面白くない。
さて今回の話題は。ブランディングとは何か、何をすればいいのかは、いろんな書籍やサイトで語られているのでここでは置いておきましょう。
視点を変えて、中小企業でよく見るブランディングプロジェクトの失敗を考えてみます。
1. 根本に手が付けられていない。
上に述べた「ブランディング一式」のパッケージの例を見て、気付くことはありませんか?
企業理念や、社訓、社是といった企業の根本に手を付けないんです。
何故なのか。それは恐らく、単に面倒くさいからです。コーポレートブランディングは、何かきっかけがあって始めることが多いです。周年、社長交代、本社移転。WEBサイトや会社のロゴが古臭くなってきた。競合他社が格好いいブランドを立ち上げた。等々。
トップから、経営企画室とか総務に対して、コーポレートブランディングを始めるように指示が下りてきます。「ただでさえ日常業務で手一杯なのに」と言いたくなるのをぐっとこらえるサラリーマン諸氏。
でも、本当に時間に余裕がないので「企業としての在り方を見直す」ような、本格的な、時間のかかるブランディングはしたくない。だから、パッケージを買うんです。
もっと言うと、ちょっと名のある広告代理店なら、素敵なプレゼン資料も作ってくれるし、社内決裁もすんなり下りるから、多少高くてもパッケージを使うんです。
ロゴを変えるだけでも、会社のビジュアルは大きく変わります。時代に合った、格好良いものになります。社内外の人から褒められるので、経営トップはそれで満足。経営企画や総務はほっと一安心。
ね。実務上はこんな感じなんです。
2. 全社的に統一されていない。
そんなこんなで、新しく作った会社のロゴは、おしゃれで格好いいものになりました。でも、カタログや会社案内、WEBサイトは古臭いままだったりしませんか?
年度予算に限りがあるとか、会社案内には在庫があるとか、カタログは○月が改訂時期だから、このタイミングでは更新できないとか。。
色々理由があるのはわかるんですが、統一感がないと、非常に中途半端な印象を受けます。「ここまで手が回らなかったんや。詰めが甘いなぁ」と、時にはイメージダウンに繋がります。要注意ですよ。
3. ターゲットに一貫性がない。
手頃感のある価格帯の商品を取り扱っている会社だったのに、いきなり今風なビジュアルに変わって、高級そうな雰囲気を出すようになった。あるいはそういうブランドを急に立ち上げた。
そんな事例、皆さん、今まで一度は見たことがあると思います。
でも、想像してみてください。例えば「すき家」で一杯1,800円の本格カレーを提供するとします。売れると思いますか?そもそも来店する客層が違うので、恐らく売れないでしょう。仮に新しいブランドの店舗を展開するにしても、そもそも、すき家のコストパフォーマンスの良さを知らない顧客に、すき家のノウハウが詰まった1,800円のカレーの価値を訴求することはできないはずです。
逆のケースもあります。例えば「Apple」が7,980円のiPhoneを発表。これは爆発的に売れるでしょう。でも、格安スマホ化がもたらすブランド価値の毀損は計り知れません。
価格競争に巻き込まれたくないとか、新たな購買層の開拓とかを本気で目指して、ブランディングに取り組む会社もあります。ただ、一朝一夕で顧客のイメージは変えられません。そして、イメージはなかなか顧客の行動に結びつきません。下手をすると、それまでのファンを逃すこともあります。
そんなこと、当然わかっちゃいるんです。でも、やめられないんですよね。「なんとかせなあかん」という気持ちが強いからこそ、今までとは違う路線に走ろうとしてしまうんです。難しいですね。
4. CI、VIデザインに凝り過ぎている。
ブランディングプロジェクトの立ち上げから発表会までは、一種のお祭りです。
我々は、生まれ変わるんだ!と。
でも、落ち着いてから振り返ると、目に見える成果としては、会社ロゴとカタログが新しくなって、キャッチコピーが作られただけ。こんな会社が多いのではないでしょうか(本当はもっと色々作るんですけど、見た目を超えるインパクトはほとんどないんで見逃されるんです)。
改めて考えてみましょう。「あ、このロゴが付いてる、買おうかな」「このロゴが付いてるから信頼できるわ」って思う会社ロゴってありますか?社名ではありません。あくまでもロゴですよ。
ほとんどありませんよね?
キャッチコピーやタグラインを消費者に覚えてもらえる企業は、ごく少数の企業です。その中で、さらに商品が選ばれるところまで成果が出るのは、さらにごく一部の超大手企業だけなんです。
広告、特にテレビCMやYouTube広告との連動がないと、なかなか直接的な効果を出すのは難しいです。
そんなお金のかかるものに中小企業がチャレンジする必要はありません。
最後に。
これらは、私が過去に携わったブランディングプロジェクトのまとめでもあります。いかがだったでしょうか。
もしかしたら私と同じように、耳が痛いな、という中小企業のブランディング担当者もいるかもしれません。
今、ブランディングと言って進めようとしていることは、本当にブランディングなのか?
広告代理店のセールスを鵜呑みにするのではなく、自社にとって本当に有意義な取り組みは何か。それをじっくり考えることが必要です。
反省を込めて。